最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛
爭案件の審理における法律適用の若干問題 に関する解釈(二)
「最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛爭案件の審理における法律適用の若干問 題に関する解釈(二)」は 2016 年 1 月 25 日、最高人民法院審判委員會第 1676 回會議に て可決された。ここに公布し、2016 年 4 月 1 日から施行する。
最高人民法院
2016 年 3 月 21 日
法釈〔2016〕1 號
最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛爭案件の審理における法律適用の若干問題に 関する解釈(二)
(2016 年 1 月 25 日、最高人民法院審判委員會第 1676 回會議にて可決された。2016 年 4月 1 日から施行する。)
専利権侵害紛爭事件を正しく審理するため、「中華人民共和國専利法」、「中華人民共 和國権利侵害責任法」、「中華人民共和國民事訴訟法」などの法律規(guī)定に基づき、審判実 務を踏まえ、本解釈を制定する。
第 1 條 専利請求の範囲が 2 件以上の請求項を有する場合、権利者は、訴狀の中に被疑侵 害者が自身の専利権を侵害したとして提訴する根拠となる請求項を明記しなければなら ない。訴狀にそれが記載されていない、又は記載が不明確である場合、人民法院は、権利 者にそれを明確にするよう求めなければならない。釈明を経てもなお、権利者がそれを明 確にしない場合、人民法院は訴えを卻下する裁定を下すことができる。
第 2 條 権利者が専利権侵害訴訟において主張する請求項につき、専利復審委員會により 無効の決定が下された場合、専利権侵害紛爭事件を審理する人民法院は、當該無効となっ た請求項に基づく権利者の訴えを卻下する裁定を下すことができる。
前述の請求項を無効とする決定が、発効した行政判決によって取り消されたことを証明 する証拠がある場合、権利者は、別途訴訟を提起することができる。
専利権者が別途訴えを起こした場合、訴訟の時効期間は本條第 2 項でいう行政判決書の 送達日から起算する。
第 3 條 専利法第 26 條第 3 項、第 4 項に明らかに違反したことにより、明細書を請求項 の解釈に用いることができず、且つ本解釈第 4 條に定められた狀況に該當せず、これによ り専利権の無効審判を請求された場合、専利権侵害紛爭事件を審理する人民法院は、通常、
訴訟を中止する裁定を下さなければならない。合理的な期間內において専利権の無効審判
が請求されなかった場合、人民法院は、請求項の記載に基づいて専利権の保護範囲を確定 することができる。
第 4 條 専利請求の範囲、明細書及び図面の中の語法、文字、句読點、図形、記號などに ついて曖昧性があるにもかかわらず、當業(yè)者が専利請求の範囲、明細書及び図面の閲読を 通じて理解を得られる場合、人民法院は、その一義的な理解に基づき認定しなければなら ない。
第 5 條 人民法院が専利権の保護範囲を確定する時、獨立請求項の前言部分、特徴部分及 び従屬請求項の引用部分、限定部分に記載された技術的特徴はいずれも限定的な機能を有 する。
第 6 條 人民法院は、本案に係る専利と分割出願の関係があるその他の専利及びその専利 審査書類、発効した専利権付與?権利確認の裁判文書を活用し、本案に係る専利の請求項を解釈することができる。
専利審査書類とは、専利の審査、拒絶査定不服審判、無効審判請求手続きにおいて出願 人又は専利権者が提出した書類、國務院専利行政部門及びその専利復審委員會が作成した 審査意見通知書(拒絶理由通知)、議事録、口頭審理記録、発効した専利拒絶査定不服審 判審査請求の審査決定書、専利権無効審判請求審査決定書などを含む。
第 7 條 被疑侵害技術案が、組成物に係る閉鎖式請求項のすべての技術的特徴を含むこと を前提に、その他の技術的特徴を追加する場合、人民法院は、被疑侵害技術案が専利権の 保護範囲に含まれないと認定しなければならない。ただし、當該追加した技術的特徴が通 常の數量の不可避的不純物に該當する場合はこの限りではない。
前項でいう組成物に係る閉鎖式請求項は、通常、漢方薬の組成物に係る請求項を含まな い。
第 8 條 機能的特徴とは、構造、成分、手順、條件又はその間の関係などについて、それ が発明創(chuàng)造において果たす機能又は効果を通じて限定を行う技術的特徴をいう。ただし、 當該分野の一般的な技術者が請求項の閲読のみを通じて、前述の機能又は効果の具體実施 形態(tài)を直接且つ明確に確定できる場合はこの限りでない。
明細書及び図面に記載された、前項でいう機能又は効果を実現するために必要不可欠な 技術的特徴に比べて、被疑侵害技術案に対応する技術的特徴を、基本的に同一の手段によ って同一の機能を実現し、同一の効果を達成し、且つ當業(yè)者が被疑侵害行為の発生時に創(chuàng) 造的労働を経ずして連想できる場合、人民法院は、當該技術的特徴と機能的特徴が同一又 は同等であると認定しなければならない。
第 9 條 被疑侵害技術案が請求項の中の使用環(huán)境の特徴に限定される使用環(huán)境に適用で きない場合、人民法院は、被疑侵害技術案が専利権の保護範囲に含まれないと認定しなけ ればならない。
第 10 條 請求項の中で調製方法により製品を區(qū)分する技術的特徴について、被疑侵害製
品の調製方法がそれと同一でも同等でもない場合、人民法院は、被疑侵害技術案が専利権 の保護範囲に含まれないと認定しなければならない。
第 11 條 方法に関する請求項に、手順の前後の順序が明確に記載されていないにもかか わらず、當業(yè)者が、専利請求の範囲、明細書及び図面を閲読した後に當該手順を特定の順 序どおりに実施すべきであると直接且つ明確に相當し得る場合、人民法院は、當該手順? 順序が専利権の保護範囲を限定する役割を果たすと認定しなければならない。
第 12 條 請求項に「少なくとも」、「上回らない」などの用語を用いて數値的な特徴を 定義し、且つ當業(yè)者が専利請求の範囲、明細書、図面を閲読した後に、専利に係る技術案 が當該用語の技術的特徴に対する限定的な役割を特に強調していると考え、権利者がそれ と異なる數値的な特徴が同等の特徴に屬すると主張する場合、人民法院はこれを支持しな い。
第 13 條 専利出願人、専利権者が専利権付與?権利確認の手続きにおいて、専利請求の 範囲、明細書及び図面の減縮補正又は陳述が明らかに否定されたことを権利者が証明した 場合、人民法院は、當該補正又は陳述が技術案の放棄を導いていないことを認定しなけれ ばならない。
第 14 條 人民法院は一般消費者が意匠について有する知識水準、認知能力を認定すると き、通常、被疑侵害行為が発生したときに権利を付與された意匠が屬する同一又は類似の 種類の製品の設計領域を考慮しなければならない。設計領域が比較的大きい場合、人民法 院は、一般消費者が通常の注意力では容易に確認できない設計間の微細な違いを認定する ことができる。設計領域が比較的小さい場合、人民法院は、一般消費者が通常の注意力で より容易に確認できる設計間の微細な違いを認定することができる。
第 15 條 組物の意匠について、被疑侵害設計がその 1 つの意匠と同一又は類似である場 合、人民法院は、被疑侵害設計が専利権の保護範囲に含まれると認定しなければならない。
第 16 條 組立関係が唯一の部品の意匠について、被疑侵害設計がその組合せ狀態(tài)下の意 匠と同一又は類似である場合、人民法院は、被疑侵害設計が専利権の保護範囲に含まれる と認定しなければならない。
各部材間に組立関係がない、又は組立関係が唯一でない部品の意匠について、被疑侵害 設計とその全部の単一部材の意匠とがいずれも同一又は類似である場合、人民法院は、被 疑侵害設計が専利権の保護範囲に含まれると認定しなければならない。被疑侵害設計にそ の単一部材の意匠が欠如し、又はそれと同一でも類似でもない場合、人民法院は、被疑侵 害設計が専利権の保護範囲に含まれないと認定しなければならない。
第 17 條 変化する製品の意匠について、被疑侵害設計と変化の狀態(tài)を表す図が示すさま ざまな使用狀態(tài)下の意匠がいずれも同一又は類似である場合、人民法院は、被疑侵害設計 が専利権の保護範囲に含まれると認定しなければならない。被疑侵害設計にその一種の使 用狀態(tài)下の意匠が欠如し、又はそれと同一でも類似でもない場合、人民法院は、被疑侵害 設計が専利権の保護範囲に含まれないと認定しなければならない。
第 18 條 権利者は、専利法第 13 條に基づき、特許出願の公開日から特許権付與の公告日
までの期間に當該発明を実施した組織又は個人に適當な費用を支払うよう訴えた場合、人 民法院は関係する実施料を參考にして、合理的に確定することができる。
特許出願公開時の出願人が保護を求める範囲と特許権付與の公告時の特許権の保護範 囲が一致せず、被疑侵害技術案がいずれも前述の 2 種類の範囲に含まれる場合、人民法院 は、被告が前項でいう期間內に當該発明を実施したと認定しなければならない。被疑侵害 技術案がその中の 1 種類の範囲のみに含まれる場合、人民法院は、前項でいう期間內に被 告が當該発明を実施していないと認定しなければならない。
特許権付與が公告された後、特許権者の許諾を得ずして、生産?経営の目的で、本條第
1 項の期間內において第三者が製造、販売、輸入を行った製品の使用、販売の申し出、販 売を行い、且つ當該第三者が専利法第 13 條に定められた適當な費用を支払い、又は支払 いを書面で承諾した場合、権利者の前述の使用、販売の申し出、販売の行為に対する専利 権侵害の主張について、人民法院はこれを支持しない。
第 19 條 製品売買契約が法により成立する場合、人民法院は、専利法第 11 條に定められ た販売に該當すると認定しなければならない。
第 20 條 専利に係る方法により直接取得した製品をさらに加工、処理して得られた後の 製品に対して再加工、処理を行う場合、人民法院は、専利法第 11 條に定められた「當該 専利に係る方法により直接取得した製品を使用する」に該當しないと認定しなければなら ない。
第 21 條 関連する製品が専ら専利の実施に用いられる材料、設備、部品、中間物などで あることを明らかに知っているにもかかわらず、生産?経営の目的で、當該製品を第三者 に提供して専利権侵害行為を実施させ、當該提供者の行為が侵権責任法(権利侵害責任法) 第 9 條に定められた、他人による侵害の援助を幇助する行為に該當すると権利者が主張し た場合、人民法院は支持しなければならない。
関連する製品、方法に専利権が付與されたことを明らかに知っているにもかかわらず、 専利権者の許諾を得ずして、生産?経営の目的で、他人に専利権侵害行為の実施を積極的 に誘導し、當該誘導者の行為が権利侵害責任法第 9 條に定められた、他人へ侵害の実施を 教唆する行為に該當すると権利者が主張した場合、人民法院は支持しなければならない。
第 22 條 被疑侵害者が主張する先行技術による抗辯又は先行設計による抗弁について、 人民法院は、専利出願日に施行されている専利法に基づき、先行技術又は先行設計を定義 しなければならない。
第 23 條 被疑侵害技術案又は意匠が先行の本案に係る専利権の保護範囲に含まれ、被疑 侵害者がその技術案又は意匠に専利権が付與されたことを理由として本案に係る専利権 を侵害していないと抗弁した場合、人民法院はこれを支持しない。
第 24 條 國、業(yè)界又は地方の推奨標準で明示的に觸れられている必須特許の情報につい
て、被疑侵害者が當該標準の実施に専利権者の許諾を必要としないことを理由に、當該専 利権を侵害していないと抗弁した場合、人民法院は通常、これを支持しない。
國、業(yè)界又は地方の推奨標準で明示的に觸れられている必須特許の情報について、専利 権者、被疑侵害者が當該専利の実施許諾條件を協議するとき、専利権者が標準制定におい て承諾した公平、合理的、無差別の実施許諾義務に故意に違反したために専利実施許諾契 約が締結できず、且つ協議において被疑侵害者に明らかな過失がない場合、標準の実施行 為の差止めを求める権利者の主張について、人民法院は通常、これを支持しない。
本條第 2 項でいう「実施許諾條件」は、専利権者、被疑侵害者が協議により確定しなけ ればならない。十分な協議を経てもなお合意に達しない場合、人民法院に決定を求めるこ とができる。人民法院は、前述の実施許諾條件を決定するとき、公平、適正、無差別の原 則に基づき、専利の革新性、標準における専利の役割、標準が屬する技術領域、標準の性 質、標準の実施の範囲、関連する許諾條件などの要素を総合的に考慮しなければならない。
標準の実施における専利について、法律、行政法規(guī)に別段の定めがある場合、その定め に従う。
第 25 條 専利権者の許諾を得ずに製造、販売されたことを知らずに、生産?経営の目的 で専利侵害製品の使用、販売の申し出又は販売を行い、且つ當該製品の合法的な出所を立 証した場合、権利者が前述の使用、販売の申し出、販売の差止めを求める主張について、 人民法院はこれを支持しなければならない。ただし、被疑侵害製品の使用者が、當該製品 の合理的な対価をすでに支払ったことを立証した場合はこの限りではない。
本條第一項でいう「知らずに」とは、実際に知らず、且つ知るべきでないことをいう。 本條第一項でいう「合法的な出所」とは、合法的な販売経路、通常の売買契約など、正
常な取引方法により製品を取得することをいう。合法的な出所について、使用者、販売申
出人又は販売者は、商習慣に適合する関連の証拠を提供しなければならない。
第 26 條 被告が専利権を侵害し、権利者が當該被告による侵害行為の差止めを命じる判 決を下すよう求めた場合、人民法院はこれを支持しなければならない。ただし、國の利益、 公共の利益の見地から、人民法院は、被告に対し、被疑侵害行為の差止めを命じる判決を 下さず、相応の合理的な範囲における費用を支払うよう命じる判決を下すことができる。
第 27 條 権利者が侵害行為に起因して被った実質的な損失の確定が困難である場合、人 民法院は、専利法第 65 條第 1 項の規(guī)定に基づき、権利者に対し、侵害者が侵害行為によ り取得した利益について立証するよう求めなければならない。侵害者が取得した利益の初 歩的な証拠を権利者がすでに提供したにもかかわらず、専利侵害行為に関わる帳簿、資料 を主として侵害者が把握している狀況において、人民法院は、侵害者に対し、當該帳簿、 資料の提供を命じることができる。侵害者が正當な理由なくして提供を拒否し、又は虛偽 の帳簿?資料を提供した場合、人民法院は、権利者の主張と提供した証拠に基づき、侵害 行為によって取得した利益を認定することができる。
第 28 條 権利者、侵害者が専利侵害に係る賠償額又は賠償額の計算方法を法に基づいて
取り決め、専利権侵害訴訟において當該取り決めに基づき賠償額を確定したと主張した場 合、人民法院はこれを支持しなければならない。
第 29 條 専利権の無効の決定が下された後、當事者が當該決定に基づき再審を請求し、 専利権無効の決定前に人民法院により下されたが執(zhí)行されていない専利侵害の判決、調停 調書の取消しを求めた場合、人民法院は、再審査を中止する裁定を下し、原判決、調停調 書の執(zhí)行を中止することができる。
専利権者が人民法院に十分且つ有効な擔保を提供し、前項でいう判決、調停調書の執(zhí)行 を継続するよう求めた場合、人民法院は、執(zhí)行を継続しなければならない。侵害者が人民 法院に十分且つ有効な求償権の擔保を提供し、執(zhí)行の中止を求めた場合、人民法院はこれ を許可しなければならない。人民法院の発効している裁定において専利権の無効の決定が 取り消されていない場合、専利権者は、執(zhí)行の継続に起因して相手方にもたらした損失を 賠償しなければならない。専利権の無効の決定が、人民法院の発効した裁定により取り消 されたにもかかわらず専利権がなお有効である場合、人民法院は、前項でいう判決、調停 調書に基づき、前述の財産の求償権の擔保を直接執(zhí)行することができる。
第 30 條 法定期間內において、専利権の無効の決定について、人民法院に提訴しない、 又は提訴後に発効している裁定において専利権の無効の決定が取り消されておらず、當事 者が、當該決定により法に基づき再審を請求し、専利権の無効の決定が下される前に人民 法院により下されたが執(zhí)行されていない専利侵害の判決、調停調書の取消しを求めた場合、 人民法院は、再審査を行わなければならない。當事者が當該決定に基づき、専利権の無効 の決定が下される前に人民法院により下されたが執(zhí)行されていない専利侵害の判決、調停 調書の執(zhí)行の終了を法に基づき申し出た場合、人民法院は、執(zhí)行を終了する裁定を下さな ければならない。
第 31 條 本解釈は、2016 年 4 月 1 日から施行する。最高人民法院が以前公布した司法解 釈と本解釈が一致しない場合、本解釈に準ずる。